志の輔落語のリアル(評価: )
安心して聴いていられる。破綻のなさにおいて現代最高の落語家であると思う。ネタは『八五郎出世』=『妾馬』の「結論」を志の輔さんが独自にアレンジして出来た『新八五郎出世』だが、このアレンジの仕方が強い安心感をもたらしてくれるので、朝日名人会のトリネタとしてこれは全くふさわしいなと思う。
まくらでいわゆる「日本人ジョーク」を引きながら、私たちってそういう風な価値観をもった人種でしょう、と本編への複線をはっておく。上手い。もはやそういう風な価値観をもった人間ばかりではない現代の日本でこのような噺をしていても、違和感がなくなってくる。それから、八五郎の愚かしさ、だけど憎めなさ、というか愛らしさのようなものを、各場面で少しづつテイストを変えながら爆笑の連発のもとに表現していく。そして、終盤にむかうにつれて家族愛的な人情にうったかけまくり、ほろり、とさせられるメッセージを押し付けがましくなく語っていく。すごい。このかつてはあったように想われ今もあればいいなと願われしかしなかなかありがたり暖かな人情が、深層心理に響いて感動せずにはいられない。
たとえば師匠談志のような、人間のリアルさのみを徹底して追求した結果、ときどき寒気がしてきたり、ほとんど狂気のような言葉が発せられたりすることは、志の輔さんにはない。だが、そうした不安感をもたらす圧倒的なリアルさとは異なるけれど、しかしほんわかとしたやさしい気分をもたらしてくれる彼特有の作品解釈のリアルさによって、最後のオチまで楽しい気分をもたらしてくれるのが、志の輔落語のなにより素晴らしい長所であるな、とこのCDを何度か聴いてみて、改めて実感した。
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